Views: 28

 タイムアップを告げる知らせが耳に入るとあれだけ熱量がこもって発されていた声も途端にゼロになった。とくん、とくん、とくん、とくん。誰かの心音か自分の心音か。それだけが静かな空間に音として存在している。誰も目を合わせない、誰も顔をあげない。輪になっているのは座り方だけで投票から見てわかる通り考えていることは皆バラバラのようだ。それにしてもあの投票は本当にバラバラになったように感じる。それこそ何の情報もない中ではいかいいえを選ばされた結果なのだろうか。それにしてはそれぞれが意思を持って会話をしていたような気がする。この中の誰かが黒幕側で投票を誘導しようとしていたのではないかと思えるほどだ。そうでなければあんなはっきり分かれないはずだ。はいといいえのどちらにせよ票を合わせておくべきだったのではないか。今更考えても遅いのだがそんな気がしてならない。おそらく同じような不安を抱えているであろう仲間がいることは肩の震えから見てわかった。ちびっこだけは下を向きながらも足をプラプラさせていたのでつくづく感心させられる。この子こそ今回の会議で最も重要な発言をしたように思えるのだが、そのことに気づいているのかいないのか。子供だとしても恐怖は抱くはずなんだが……

 『あー。皆さんお疲れ様です。集計が終わったのでご報告をしにやってまいりましたよ。最終問題が終わったというのになんでそんな暗いんですかねぇ。もう少し和気あいあいとしていてもいいような気もするんですけどね。では、結果を発表しますと【はい】に投票したのは山上さん、秋枝さん、十文字さん、虎さん、そして宮沢さんの五名。【いいえ】に投票したのは成瀬さん、時渡さん、成さんの三名となりました。まあこうなりますよねって感じでした、本当に。ちょっと意外なところもあったんですけど結果だけ見るとそう言えますね。どうでしたか、一人一言ずつ感想を言うってのは………さすがにそういう雰囲気じゃないですかね。では切り替えてささっとあなた方がこれからどうなってしまうのか発表しますがそれでよいですか?』

 静寂。あまりにも静寂。誰もこのマスターの声には反応を示さなかった。肯定なのか否定なのか、それさえも彼にゆだねるという姿勢だ。けれどもそれが最も正しい反応のように思えてしまう自分がいる。

『誰一人として言葉を発してくれないのでこのまま続けてしまいますね。では、あなたたちは今回のゲームを無事生きてクリアすることができました。今回だけでなくこれまでのすべての部屋でも無事生きてクリアという快挙。そんな素晴らしいあなた方は……………この空間から出て行ってもらいます。現実世界へサヨナラ!!』

 ふっという音とともについ先ほどまで人形だった自分たちに生が宿った。長い、長い溜息と共に手を上へ伸ばしたり、大声で叫んだり。様々な動作で心の枷が解けたことを表現している。生きて帰れる。その事実で胸どころか体全体を包みこんでくれる。円卓を囲むメンバーをさらに囲むのは喜びと言う感情だった。安堵すらも喜びに覆いつくされて変換する、そんなレベルで心臓が拍動していた。

『いやぁ、そこまで喜んでくれると主催したこっちも狙い通りと言うか嬉しいというか……って全然この声聞いてくれないんですけど。え?まとめの話、聞いてくれないんですか?ネタバレとか説明とかなんも要らないの?そういう感じならこっちもそういう感じで対応しますけど、いいんですね?おーい。おーい………もういいやいっ!』

 誰かがスイッチを押した音がした。その音に従うかのように意識がふっと落ちていった。目が覚めるとそこは見慣れた光景があった。ちょっと汚れた天井、さわり慣れた布団、汚い部屋と嗅ぎ慣れた自分のにおい。あぁ、帰ってきたとすぐ気づいた。自分たちは生きて戻ってきた。あの空間に入った前のけだるい感じはない。脳内に流れ続ける嫌なノイズもない。明らかにすっきりしている。あの場所がどこに存在して、なぜ自分があそこに入れられたのかはわからない。だけどあの場所がなぜ存在するのかはちょっとだけわかった気がする。

 『ふぅ、ひと段落付きましたね。これで四百七十三グループ目ですか、だいぶ数も増えて来た……っと放送がつけっぱなしでしたね』

 「今回のグループは八人か。まあ途中で大幅に人数が減ってしまって慌ててここに含めたひとたちも何人かいますがいいでしょう。それにしてもあのメンバーは本当に不思議な人たちでしたね。最後の部屋も協力しているのかしていないのかよくわからないままだったし。あれは私がそう仕向けたせいでもあるんですけどもう少しスムーズにいくと思ってましたよ。ある人には投票の答えを教えて、ある人にはこの空間の存在理由をストレートにお伝えして。結構簡単に話が進むのかなとは思ったが……そうはいかず。場を荒らすように指示を出した人が何とか頑張ってくれましたね。これはこれは本当に有難いことで、それだけ話術があればどこへ行っても頑張れるでしょうと思いました。何も活躍しなかったり、自分の意思がなくいつまでも人に流されるような人がいるのならその人には残って二週目に参加してもらおうと思ったんだけどそんな残念な人はいなかったので今回は全員追放と言うことで。あとは彼らがどう努力してどう頑張るかですね。少なくとも前よりは生きることに対する執着は増えたでしょう。無垢な少年はちょっと危ないところがあったのでね、今回は特別お呼びしました。少し怖いものが増えてしまったかもしれないですけどそれも生きるための防衛本能を搭載してあげたということで許してもらえるでしょう。これからが楽しみで仕方ないですね。生の有限に気づいた彼らがどう生き方を変えていくのか。見ることができないのが残念で仕方ないですが。それでは、独り言はほどほどにして他の部屋にいる人の様子を見ねば……」

 生きていたくても死んでしまう人がいる一方で生きる理由はないのに生きてしまっている人がいることに気づいた人物がいた。その人物は数か月後にあるシステムを作った。それは人の意識をそのまま別の場所へ移すというものだった。その人物はそれを世間に公表することなく、それを用いて社会で生活しながらも様々な理由で『生への欲求が少ない者』を一か所に集め様々なゲームを行わせた。ゲームの中には死に至る物もいくつかある。だがそれらを経験することで彼らの無意識化に生への執着を植え付けるのが狙いだった。道中で亡くなったものは仕方ないが意識をもとの場所に戻す。それらの人々に成長はないかもしれないが自分が死を与えるよりは正しい判断のように思えた。そうしてそれらの問題を乗り越え最終まで残った者にはおそらく存在しているであろう生への執着、欲求。それさえあればあの社会で生きていくのは容易だと考えていた。自分がこれを繰り返すことで意味もなく生きる人間がこの世界からいなくなる。それは社会の清浄にもつながると同時にこれまでやむなく死んでしまった者への懺悔にもなると思った。

 ここ最近になってようやくこの計画の結果が見え始めた。だがその人物はそれに喜ぶことはなく当時と全く変わらぬ姿で同じ作業をずっと繰り返している。それが社会を見て、そして失った彼の役目なのだ。ずっとこの先も続けるだろう。哀れな人がゼロになるまで。

Views: 1593

 ピピピッピピピピピピピピピピーーーー

 一時間ほど経過したころだろうか、突如部屋中にタイマーが鳴り響いた。集中して解決の糸口を考えていたメンバーの緊張の糸が一瞬切れたが、警戒心によってまた体が硬くなったように見える。声を出すどころか体をピクリとも動かせないほど張りつめた空気が立ち込める。

『あ、あー。聞こえますか?聞こえますか?聞こえているなら右手を挙げてください』

 漂う空気に押しつぶされて誰かがよろけたのとほぼ同時のタイミングでどこからか人の声が聞こえた。すっと動きだした聖職者が暖炉の上部を強く叩くとぽろっと何かが落ちて来た。それをためらいもなくつかむ。

『あ、あー。聞こえてないかな?あー。あー』

 聖職者が握っている四角い小さな箱のようなものから声が聞こえてくる。真っ黒なただの箱のようにも見えるがおそらくスピーカーなのだろう。聖職者から奪い取り、皆が経っている場所の中央にそっと置いた。その動きの流れのまま右手を挙げると呼応するように今いる全員の右手が挙がった。

『確認しました。どうやらちゃんと聞こえているようで安心したよ。だいぶ緊張しているようだけどもっとリラックスしていいのに。色々言いたいことはあるけどそれは後にしよう。今ここでこうして声を出しているのは私の存在を知ってもらうため。ちょっと時間が経った後にまたこの声を聴くことになると思うけど警戒しないでほしかったから。ネタバレをすると次が最後の部屋なんだ。最も大事な問題を解いてもらうつもりさ。それなのに俺への警戒ばっかりで話をよく聞けなかったら最悪だろう?それを避けるためにわざわざこうして事前に登場したってわけ。では自己紹介はほどほどに最後の部屋でまた会おう、まあ声だけなんだけどね。最後に一つ、僕は君たちを助けはしないけど敵じゃない。それでは』

 スピーカーの音質のせいかあまりいい声とは思えない謎の人物からのメッセージが途絶えると再び部屋は静寂に包まれた。

 プシュー。ドアが開いた音のような音が聞こえた。だが周囲を見回しても部屋に目立った変化はなかった。手分けして部屋の壁や暖炉などを確認するが何も変化はない。

 突如少年がむせて床に倒れた。駆け寄ると彼のいたところの真上から何か煙のようなものが噴出していた。慌てて確認するとこれと同じように薄い煙が噴出している箇所が何ヵ所かあった。ばたん、ばたん。確認しなくてもわかった。誰かが倒れた音だ。朦朧とする意識の中自分だけは何とか耐えようと試みるが数秒も耐えられずにふっと体が傾いた。

 「あ、あー。ショートさん聞こえます?聞こえてるかなぁ……まあ聞こえてるでしょう。体は動かないでしょうがお気になさらず。今は次の部屋に移動している最中です。意識だけ少し覚醒させたので私の声は聞こえているけど体は動かないっていうもどかしい状態だと思います。んで、覚醒させたのは単純明快、次の部屋で取り組む問題の情報を与えようかと。情報と言っても何をやるかは教えないですよ。ただ、あなたがその場で何をするべきかを伝えるだけです。あなたは次の部屋でリーダーとなるでしょう。みんなの意見を促し、聞いて。それをもとに自分の答えを出す。今までと似ているかもしれないですが今までよりはちょっと難しいかもしれないですね。自分が求めるゴールへたどり着けるよう応援してますよ。あっ、目が覚めた時にこの記憶は残るでしょうからこれを信じて言うとおりにしてもいいし信じずに自分のしたいように振舞ってもいいです。最終的にはあなた自身で意思を決定してください。では再び寝ていてください……」

 『みんな起きてくださーい。朝ですよー。あ、二人ほど起きましたね、おはようございます』

 つい先ほどまで聞いていた声が前回とは比べ物にならないほどはっきりと聞こえた。無機質で少し不気味な感じはするが寝起きにはこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。目を開けると先ほどまでいた部屋ではなく新たな部屋だ。部屋の両サイドには音楽室にあるような大きさのスピーカーがシンメトリーに置かれている。スピーカーの音質が良くなったことによって明瞭に聞こえたのだろうと推測できた。

『あ、どうやら全員目覚めたっぽいですね。おはようございます。僕の声、覚えてますか?』

 何人かがその質問に対して素直にうなずいていた。

『ではちゃちゃっと説明しちゃいますね。今あなたたちがいる部屋は最終ゲーム【投票】の部屋です。ゲーム名のとおり投票をしてもらいます。投票先は【はい】か【いいえ】の二つだけで、それ以外の意思を示す投票はできないのでよろしくお願いします。残り時間十分と残り時間五分になった時にはこちらからそれを伝えますので聞き逃さないようにしてください。残り時間がゼロになった時に投票を宣言していない場合は【はい】に投票をしたと認識されます。投票を宣言する場合は「投票します。はいに一票」のようにわかりやすく伝えてください。受理しましたなどの通知はしないので不安にならずそのまま会話に参加してください。以上が説明となります。理解できなかった部分、説明が不足していると感じた部分は会話を進めていけば自然とわかっていくでしょう。それではみなさん準備ができたら中央にある円卓にお座りください。一応ですが椅子の背の裏にそれぞれの名前が書かれたプレートを貼っておいたので自分の名前が書かれた席に座ることをお勧めしますよ』

 妙に自信のある人、不安そうにぽつぽつと歩く人。それぞれで全く異なる様子だったが自分の目に映る七人全員が自らの足で椅子に座った。その様子を見た後に慌てて自分も最後の椅子に座る。

『おっ、準備はできたようですね。では開始を宣言する前にちょっとだけ雑談を。あなたたちがこの前にプレイした少女の部屋。あそこで得た力や情報もここで利用できるかもしれないですね。もしあれが自分たちへのメッセージだとしたら?自分の好きにできる自分のための世界、それが通じない一般的な社会。あなたがたが戻りたい世界はどっちなんでしょうねぇ……っと無駄話はここまでにして、皆さん準備はいいですか?』

 円卓を囲む彼らの表情を見る。先ほどまでとは打って変わり皆同じように何か決意を宿したような表情となっていた。それを見てしまった今自分だけが不安そうにしているのもなんだかおかしいように思える。この最後の部屋を抜けてみんなで脱出。それだけ忘れないようにしていればいい。それに気づいた途端なんだか頭が軽くなったような気がした。いける。心の中にいるであろうもう一人の自分がそう呟く。

『それでは最終ゲーム【投票】スタートです』

 始まりを告げる笛の音がスピーカーを通じて耳に届いた。

Views: 1104

 機転を利かせて生み出した骸を合わせて鉄の処女の中に入れた時、どこかでカチッという音がした。その場にいた全員はそれが解決に一歩近づいた音だと確信する。あとに続くように残りの二つも同様に亡骸を入れていくとカチッ、カチッと音が鳴る。周囲の不安を煽るような静寂が数秒の間あたりを包んだ後、突如小屋が倒れその裏からゴールの扉が見えた。早くこの部屋から抜け出したいという気持ちからか皆自然と扉に向かって走って行く。その時おそらく全員の耳にある言葉が聞こえていただろう。

『ホントウノモノガタリハココカラダヨ』

【Side.管理者】

この拙い空間でも彼らは着々と歩を進めている。辿り着く場所は天国なのか地獄なのか、それは管理者である私でさえもはっきりとは答えられない。だが一つ言えることがあるとするならば、今彼らが進もうとしている道は少なくともこの空間によって、即ち私の手によって作られた道であるということだ。私がこうして彼らをここに集めなければ彼らは今頃自分の手で愚かな決断を下していただろう。もしくはその愚かな決断さえも自らの手で決められずにいたかもしれない。どちらにせよこのままでは彼らの道は途絶えていた。彼の可能性を私が残したと言えるのだ。これが救済なのかもしくはその逆なのかは先ほどと同じではっきりと言うことはできない。これからの彼らの行く末を私はここで眺めることしかできない、いや、しない。

 以上で記録報告を終える。次に彼らの転送を行う。データ『XYCD―OWDD―A―BGH』コード起動完了。彼らの首を確認、異常なし。よって階層4へ転送する――――――――

 目が覚めた。だがこれまでの目覚めよりさらに意識の馴染みが悪い。ただ寝て起きたというには到底無理なレベルの違和感だ。原因ははっきりしている。夢と言うには少し無理があるあの記憶だ。自分の過去と言う可能性もゼロではないが明らかにこの空間での出来事のように思える。ふと自分の首を触ってみるが異物に触れた感触はなかった。そうなると自分の夢という可能性もあるわけだが周囲を見てみると目が覚めた人たちは皆今の自分と同じ行動をしている。つまりこの記憶は実在するものだ。彼らの反応から推察するに誰かがここに来て自分たちをどこかに転送したということのようだ……いや、この中の誰かがあの人物だという可能性もあるのか。だがその場合首を触るのは演技だということになる。残念ながら自分の観察眼では演技かどうかの判別はできない。とりあえずどちらの可能性もある体でこれから行動していった方がいいように思える。

あの人物が誰なのかという問題は一度置いておくとしてあの人が言っていた言葉はどういう意味なのか、それを考えるのは大事なような気がしてくる。道がどうこう言っていた。作ったのは自分だとも言っていた気がする。自分が用意しなければ彼らはナントカカントカ。人物の方ばかりに注目がいってしまって話していた内容の方があまり頭に残っていないことが悔やまれる。他の人たちも同じ内容を聞いていたのなら一人か二人覚えている人もいるだろう。結局そこらへんの思考は全て他人に任せることに決めた。

 目が覚めたら知らないところにいて、次のゲーム部屋があって、その前に新たな人間がいる。同じことの繰り返しになりつつあるこの一連の動作がなんだか黒幕に操られているような気がしてとても嫌だったので今回は仲間が全員目覚めるのを待つ前に勝手に行動してみる。と言っても少し歩けば何かを抱えている人に出会うことには変わりはないのだろう。

 予想通り目が覚めた所からちょっと歩いたところにある先ほどより少し狭い空間で二人の人物がいた。向こうもこちらの姿に気づいたのか、しきりに手を振ってくる。まるで自分たちを待っていたみたいで少し不気味だ。この二人は自分の置かれている状況を理解しているのだろうか。

 彼らとの距離が十分に近づいた時、左にいる男から一枚の紙を手渡された。やたら説明したがっているので素直に聞くと、どうやら彼らは二人でここに辿り着いたものの目の前のゲートが開かないせいで先に進めずに困っていたらしい。ゲート前に置かれているこのルールブックを見ると参加人数八人と書かれていたため仕方なく残り六人が集まるまでここで待っていたという。理解はできたものの、彼の口調から伝わってくるいかにも『自分この空間慣れてます』感がどうにも鼻につく。嫌なのだがはっきりと嫌だとは言いたくならない。できるなら彼が話す時間を極力与えないようにしようと思ったがどうやら自分は運がないらしい。後ろからぞろぞろとアイツらがやってきてしまった。これで人数が揃ったのは嬉しいことだが同じような説明を再び聞かなければいけないと思うと少し辟易とする。これなら最初から集まって行動した方が良かった。まさか、こうなることも黒幕側はわかっていたのか……?

 全員にルールブックが渡り、彼の二度目の説明を聞き流し終えると目の前のゲートがガチャンと音を立てて開いた。ゲートがさがっていた状態でも向こうの様子は見えていたのでわかってはいたがその先はただの一本道だった。とても狭い道だったので全員が一列に並んで進む。何か危険を察知したのか先ほど出会った彼らを含めた数名は頑なに先頭を進むことを嫌がっていたので仕方なく先頭を進む。

 『ルールブックの内容』

・この部屋は八人が集まらないと開始できません

・八人で部屋に入った後、中央にある絵本『しょうじょのせかい』を読んでください

・読み終わったらその絵本のおかしい点や納得できない点をお互い話し合いましょう(一人一個出せれば最善ですが出せなくても問題ありません)

・話し合いが進めば自然と脱出口は現れるでしょう

・『しょうじょ』と『しょうじょのせかい』と『世界』のどれを優先するのか、それによってしょうじょの未来が決まることを忘れないでください

 ちょっと進んで右へ曲がるとすぐ目的の部屋に辿り着いた。恐怖心はあるものの空元気で中に入る。至って普通の部屋だ。中央の丸テーブルの上に八冊の絵本が重ねられている。おそらくあれが『しょうじょのせかい』なのだろう。部屋の右側には立派な暖炉があった。火はどこか弱々しく見える。この部屋の空気の影響なのだろうか。

中央奥には珍しいことだが脱出口が見えていた。ゴールがどこにあるのかわかる安心感はあるものの、悲しいことに左、中央、右と脱出口が三つあるためむやみに飛び込むことができない。さらによく見るとゴールすべてにガラスのようなものがはめ込まれていて今の状態では割ることができそうにない。大人しく絵本を読むしかなさそうだ。少年が無邪気に座って絵本を読み始めたのを合図に各々が絵本を手に取り読み始めた。これまでとは異なる形式で理解ができていない部分もあるが何とかしなければ。

 『しょうじょのせかい』

 わたしは王さま。なんでもできる王さま。たのしいときはクマの人形さんとあそぶ。メリーちゃんはわたしがよびかけるとなんでもこたえてくれるしわたしの言うこともぜんぶきいてくれる。

 「ねえメリー、あなたはクマなんだからはちみつがすきでしょ?だからはちみつをたくさんあげるわ」

 メリーちゃんをはちみつボトルの中につめこんだ。ぎゅうぎゅう、ボトルからははちみつがあふれ出してもうはちみつボトルなのかメリーちゃんボトルなのかわからない。メリーちゃんはとてもよろこんでいた。でもこれだけじゃまだしあわせが足りないとおもってべとべとになったメリーちゃんをだんろになげ入れた。てらてらてら、ぼぉぼぉぼぉ。甘いにおいとこげたにおい。メリーちゃんのよろこびがはなからつたわってきた。おめでとう、メリーちゃん。

 たいせつなメリーちゃんがいなくなってしまいました。もう話をきいてくれるともだちはいない。それがなんだかとってもかなしくって、つらくって。きれいにおよいでる金ぎょやあたらしいカメラもだんろでもやした。なにもかわらなかった。でもこれでパパやママもわたしと同じ気もちになれるからしあわせ。

 パパとママにおこられた。パパとママはともだちをなくす気もちがわからないからおこるんだ。このかなしみをつたえるためにわたしはふたりのけいたいでんわをだんろに入れた。だんろがかわいそうだったのでいもうとがたいせつにしていたおえかきえほんもいっしょに入れた。これでわたしもパパもママもいもうともだんろも、みんないっしょでみんなしあわせ。

 パパがおかしくなっちゃった。パパはだんろの火をけしちゃった。だんろの中にはもえのこったゴミたちだけがさわいでいる。だんろはもちろんないていた。パパはやっちゃいけないことをやってしまった。ばつを与えなきゃ。パパお気に入りのこおりをくだく太いはり、これでぱぱの足をさしてみた。パパはないている。パパの足も同じぐらいないていた。こえをきいたママがあわててどこかにでんわをかけていた。ほんとうはママにもじっくりなみだを見てもらいたいけどしょうがない。でもパパにはだんろの気もちがつたわったようなのでうれしい。やっぱりみんないっしょ、みんな同じ気もちでいるのが一ばんだ。

 つぎの日からパパとママがわたしをさけるようになった。いもうとのせわばかり。わたしはとてもかなしいしさみしい。いもうとのクレヨンをだんろに入れたぐらいじゃわかってもらえそうにもない。とてもつらいかなしい。みんな同じ気もちにならなきゃよくないよね。パパとママのためにわたしはだんろに火をつけた。ぼぅ、もえる火がわたしたちのしあわせをいのってる。ありがとうだんろさん、ありがとうメリーちゃん。