酔いの口から 第2章

20:45

 金髪のお客さんが勢いよく立ち上がって、他のお客さんがびっくりした顔になった。

 なんだろう、なにか喧嘩でもしてるのかな……。

 嫌な予感がして、厨房の方のカメラをアップにした。お父さんはいつも通り淡々と料理していて、その横では、お母さんも鍋を作っている。口はうっすら笑ってるけど、目はじっとコンロの火を睨みつけてる。

 首の後ろが急に寒くなってきて、亀みたいにギュッと肩をすぼめる。

 ……お母さん、キレそう……。

 そりゃそうだ。今日はいつにも増して変なお客さんが多い。急に立ち上がる人、怒ってる人、しょっちゅうお母さんたちを呼びつける人(多分だけど、クレーマーってやつだと思う)、知らん顔してお酒を飲み続ける人……さっきから、バイトのお姉さんがアリみたいに店中をウロウロしていて、かわいそうだ。

 何より、個室のお爺さんがひどい。お店でギターを弾く人なんて初めて見た。監視カメラ越しには音もないのに、こっちまで耳を塞ぎたくなってくる。お母さんとバイトさんが何回か注意しに行ってるけど、ちっとも聞いてないっぽいし、それどころか、そのうち机の上に乗り上げそうなくらいどんどん盛り上がってるのがわかる。

 もしお母さんがキレるとしたら、99.9999パーセントはこのお爺さんのせいになるんじゃないかな?

 お母さんがキレるのはまずい。ぼくが怒られてるんじゃなくても、なんかまずい。

 __お爺さん、これ以上暴れないでよ!

 個室の映像を、ぼくも睨みつける__

酔いの口から 第2章」への158件のフィードバック

  1. ひとが苦手なんです、苦手な自分が嫌だからここでアルバイトを始めたんです、失礼だとは、その、存じていますが、どうかギターではなく語らいで、お願いします…

  2. そうだったのか。それは苦労してるなぁ。わかったわかった。それなら、わしはもう弾かん!  ただ、ひとつお願いしたいことがあるんだが……。

  3. 我はな、姉ちゃんになんか音楽的な情熱を感じるんだ。苦労も沢山してきたと思うしなぁ……。だからここでひとつ姉ちゃんの音楽を奏でてみてくれ!

  4. わたしは、この居酒屋の仕事もうまくできないし、私が大切にしたいことは何も上手くいきません。でも、なんとかできるようにしたいんです。
    ご理解、いただけましたか…?

  5. 嬉しいです。音楽やめてから人に聴かせるなんて二年ぶりだったので、ダメってわかってても、人に聞いてもらうのは楽しいの、思い出せました。
    どうか静かに、素敵なお時間を、お願いします。

  6. あいや、わかった。他に何も言わなくて良い。姉ちゃんの奏でた音がすべてが込められている。他の人の迷惑になることもやめようじゃないか。ああ、それと姉ちゃんにこれを渡しておこう……。

  7. あぁ! ここにいる人だけでなく、姉ちゃんの音楽は必ず大勢の人の心に訴えることができる! さっきの弾き語りを聴いて確信した。だからもしあんたが興味あればぜひ、ウチのスタジオに来て曲を書いてくれ!

  8. うむ、その意気だ! このメールに連絡してくれれば大丈夫だからな! 今から姉ちゃんがデビューするのが楽しみだ! (大声で)女将さぁん! モツ鍋まだぁ?

  9. なんだよ。絵の才能がないんだろ、枯れ井戸。
    ろくに勉強もしねーで美大にも落ちて。
    お先真っ暗じゃん。それでよく私のこと馬鹿にできたなぁ。

  10. あら!いいわね、しかも芸大なの!あのね、いい人は早く捕まえておかないと、私ぐらいの年になったとき、いい人はみんな結婚しちゃってるのよ!

  11. うーん、そうねえ人によって幸せは色々だと思うけど、私は一生一人で生きていくのは無理だし、周りに取り残されるのが辛いから結婚したくって。私、3年付き合ってた人がいて、そろそろ結婚かなって思ってたのよ。なのに振られちゃって。

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