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<承認欲求> それは高い低いがあるにせよ、人間誰しもが抱える面倒な欲求だ。 警官、メイド、魔女、猫。 どのコスプレをした彼女たちもこぞって写真を撮っている。それも自分たちの。 この後SNSに載せて、いいねとコメントで溢れ返ることを期待しているのだろう。 例え知らない男性に声をかけられたとしても、怪しむことなく甘ったるい声を出して満更でもない顔をする。それすら彼女たちにはステータスになる。 これは想像や僻みではない。私はそう確信している。 だって私がそうだったから。 今思い出すと恥ずかしくなるくらい自撮りを載せたり、痛い文章を添えてSNSに投稿していた。 それに反応が来るほど承認欲求は満たされたし、自信を纏っていたと思う。 しかし、そんな自己満足も就活の時期になれば反応は減り、いつまでも遊び呆けている自身に恥ずかしさを覚えた。 社会人ともなればただの黒歴史と化し、思い出して沸き起こる羞恥に耐えきれず賑やかな通りから一歩逸れた道から帰宅していた。 こっちの道は混雑もなく、騒ぎ疲れた学生や仲間内での集まりでそれほど喧騒には包まれていなかった。 「早く帰ってドラマ見よ。」 普段とは違う街の様子に少し浮かれそうになるが、同じ過ちを繰り返すまいと息巻いて歩みを進める。 すると、少し行った先に人だかりができているのが見えた。 「気にしない気にしない、まっすぐ帰るの。」 言い聞かせるように吐いた言葉をかき消すように、雑踏の中から聞こえてきた言葉に足を止める。 『……警務部………甲冑……容疑者………ホームレス…。』 「え、ドラマの撮影?」 思わず気になり規制や誘導がないことを確認すると、一歩一歩その人だかりに近づいて様子を伺う。 警官らしき人を中心に繰り広げられていたのは、どうやら事情聴取的な何か。 その足元のマンホールには、甲冑を身に纏った人が倒れている。 「…やっぱドラマ?」 近くにいた人に確認しようとすると、突如飛び出してきたのはアカツカマリオという男。 そして何か叫び即座に回収されたかと思えばどうやらこの状況、ドラマでも何でもなく普通に事件らしい。 複雑に絡み合って交差する人々と、甲冑を纏った某氏。 この胡散臭い現実は、ハロウィンのトリックか。 ___きっとバズる。 グンと押し寄せた欲求と興奮に震える両手でギュっとスマホを握りしめ、目前に構えて画面をタップした。
@NihonUniversity College of Art