原稿入力
戻る
ピース番号
名前
原稿
b8p
ジャクソン・田中
「じゃあ、誰が持ってきたのよ!」 東堂がヒステリックに叫ぶ。それに呼応し、各々が口を開く。 「俺じゃねえぞ。俺はただ移動させただけだからな」 「嘘つけ、お前だろ」 「俺じゃねえって言ってんだろ」 「ちょっと、言い争いは止めてよ」 「そうだよ! 落ち着いて!」 「黙ってろ、この、クソ陰キャ女が!」 と太田が吐き捨てるように言ったところで、思わず「くくく」と声を漏らしてしまった。俺は咄嗟に手で口を覆い、一同の顔色を窺う。幸い、皆は口論に熱中しており、こちらを気に留めている者は居なかった。 鴉と言えど、死骸を前にして、あまりニヤニヤ笑っているのは不謹慎だと理解しているが、それでも気分が良いので自然と笑みが零れてしまう。それは単に嫌いな連中が言い争っている様を見るのが愉快ということだけではなく、奴等の腐った性根が露わになるのが実に嬉しかった。 「ジャクソン! お前も太田の仕業だと思うよな?」 不意に黒岩が話を振ってくる。これまで殆ど蚊帳の外に居たこともあり、多少まごつきながら答える。 「ワタシ、何もワカラナーイ」 「ちっ、使えねーな」 この馬鹿な演技も偶には役に立つのだった。だからと言って、恥辱であることには変わりなく、俺にこんなことをさせているゼミの連中はあの鴉のように死ねばいいと思った。 俺の名は〈ジャクソン・田中〉という。アメリカ人の父と、日本人の母との間に生まれたハーフだ。だが、生まれも育ちも日本であるため、英語を流暢に話せる訳でもなく、ごく普通の日本人と何ら変わりなかった。それにも関わらず、俺の外見は父の血の影響が強く、外国人に見られることが多かった。そのため、初対面の人と話す際にはこの一連の説明が必須だった。 ゼミの連中と初めて会った時、俺は説明義務を果たそうとした。しかし、連中は聞く耳を持たずこんな質問を投げかけてきた。 「ドゥーユーライクホットドッグ?」 不快だった。端から俺を外国人と見なしてきたことにも、アメリカ人はホットドッグばかり食べていると考える浅はかさにも。 この時点で連中に対して嫌な印象を抱いていたが、それでも俺は挫けず、再度義務を果たそうとする。だが、 「ワットフェイバリットジャバニーズフード?」 連中は次にそんなことを訊いてきた。 俺は言葉を失ってしまった。 そして、悟った。こいつ等は違う人種なのだと。それは、アメリカ人とか日本人とかそういうレベルの話ではない。こいつ等には何を話しても無駄なのだ。 俺は説明義務を放棄して、それからは外国人の〈ジャクソン・田中〉として振舞うこととなった。連中を欺き、心の中で舌を出すことがせめてもの反抗だった。 もう直ぐ授業が始まる。依然として、連中は誰が犯人なのか争っていた。否、最早そんなことはどうでもいいようで、口汚く罵り合っているだけだった。 その中で、俺は答え合わせを終えたような気分だった。