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いちご いちかわ
何一つがんばってこなかった怠惰な人生。 田舎でなんとなく高校を卒業して、とりあえずで上京して、ちっちゃい企業でせこせこ働いて、そしたら突然リストラされて。 その矢先にこれだ。 鞄に入れていたエロ本を見られただけならまだ良かった。 さっきまで僕は、百万円を盗んだ容疑者として警察署で拘束されていた。 優しい妻が温かいご飯と一緒に見送ってくれたにも関わらず僕は……ハローワークに行く決意すらできなくて、クビにされた会社へ通う電車に意味もなく揺られるだけだった。 きっとそのバチが当たったんだ。 守るべき存在がいるのに、僕はなにもしなかった。 なにもできなくても、少しでも収入を得るために道端に落ちてる本だって拾った。 けどやっぱり、そんな中途半端じゃ意味は無いんだ。 僕が最初からハローワークに行っていれば、そもそも容疑者にすらならなかった。 全部全部、僕が悪い。 あの後百万円が見つかったかは分からなかったけど、僕は突然開放された。 目を細めて、響くように大きく舌打ちされたけれど。 それでも僕は、今立っている。 暖かくも冷たい、この扉の前に。 この扉が冷たく重く感じるのも、僕のせいなんだけど。 大きく深呼吸してから、ガチャリ、と鍵を差し込んだ。 ゆっくり回して、鍵が開いた感触が手に伝わる。 また息を大きく吸って、口から大きくため息を一つ。 「ただいま」 その後に返ってきたおかえりに、僕は胸を貫かれて涙を飲み込んだ。