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 機転を利かせて生み出した骸を合わせて鉄の処女の中に入れた時、どこかでカチッという音がした。その場にいた全員はそれが解決に一歩近づいた音だと確信する。あとに続くように残りの二つも同様に亡骸を入れていくとカチッ、カチッと音が鳴る。周囲の不安を煽るような静寂が数秒の間あたりを包んだ後、突如小屋が倒れその裏からゴールの扉が見えた。早くこの部屋から抜け出したいという気持ちからか皆自然と扉に向かって走って行く。その時おそらく全員の耳にある言葉が聞こえていただろう。

『ホントウノモノガタリハココカラダヨ』

【Side.管理者】

この拙い空間でも彼らは着々と歩を進めている。辿り着く場所は天国なのか地獄なのか、それは管理者である私でさえもはっきりとは答えられない。だが一つ言えることがあるとするならば、今彼らが進もうとしている道は少なくともこの空間によって、即ち私の手によって作られた道であるということだ。私がこうして彼らをここに集めなければ彼らは今頃自分の手で愚かな決断を下していただろう。もしくはその愚かな決断さえも自らの手で決められずにいたかもしれない。どちらにせよこのままでは彼らの道は途絶えていた。彼の可能性を私が残したと言えるのだ。これが救済なのかもしくはその逆なのかは先ほどと同じではっきりと言うことはできない。これからの彼らの行く末を私はここで眺めることしかできない、いや、しない。

 以上で記録報告を終える。次に彼らの転送を行う。データ『XYCD―OWDD―A―BGH』コード起動完了。彼らの首を確認、異常なし。よって階層4へ転送する――――――――

 目が覚めた。だがこれまでの目覚めよりさらに意識の馴染みが悪い。ただ寝て起きたというには到底無理なレベルの違和感だ。原因ははっきりしている。夢と言うには少し無理があるあの記憶だ。自分の過去と言う可能性もゼロではないが明らかにこの空間での出来事のように思える。ふと自分の首を触ってみるが異物に触れた感触はなかった。そうなると自分の夢という可能性もあるわけだが周囲を見てみると目が覚めた人たちは皆今の自分と同じ行動をしている。つまりこの記憶は実在するものだ。彼らの反応から推察するに誰かがここに来て自分たちをどこかに転送したということのようだ……いや、この中の誰かがあの人物だという可能性もあるのか。だがその場合首を触るのは演技だということになる。残念ながら自分の観察眼では演技かどうかの判別はできない。とりあえずどちらの可能性もある体でこれから行動していった方がいいように思える。

あの人物が誰なのかという問題は一度置いておくとしてあの人が言っていた言葉はどういう意味なのか、それを考えるのは大事なような気がしてくる。道がどうこう言っていた。作ったのは自分だとも言っていた気がする。自分が用意しなければ彼らはナントカカントカ。人物の方ばかりに注目がいってしまって話していた内容の方があまり頭に残っていないことが悔やまれる。他の人たちも同じ内容を聞いていたのなら一人か二人覚えている人もいるだろう。結局そこらへんの思考は全て他人に任せることに決めた。

 目が覚めたら知らないところにいて、次のゲーム部屋があって、その前に新たな人間がいる。同じことの繰り返しになりつつあるこの一連の動作がなんだか黒幕に操られているような気がしてとても嫌だったので今回は仲間が全員目覚めるのを待つ前に勝手に行動してみる。と言っても少し歩けば何かを抱えている人に出会うことには変わりはないのだろう。

 予想通り目が覚めた所からちょっと歩いたところにある先ほどより少し狭い空間で二人の人物がいた。向こうもこちらの姿に気づいたのか、しきりに手を振ってくる。まるで自分たちを待っていたみたいで少し不気味だ。この二人は自分の置かれている状況を理解しているのだろうか。

 彼らとの距離が十分に近づいた時、左にいる男から一枚の紙を手渡された。やたら説明したがっているので素直に聞くと、どうやら彼らは二人でここに辿り着いたものの目の前のゲートが開かないせいで先に進めずに困っていたらしい。ゲート前に置かれているこのルールブックを見ると参加人数八人と書かれていたため仕方なく残り六人が集まるまでここで待っていたという。理解はできたものの、彼の口調から伝わってくるいかにも『自分この空間慣れてます』感がどうにも鼻につく。嫌なのだがはっきりと嫌だとは言いたくならない。できるなら彼が話す時間を極力与えないようにしようと思ったがどうやら自分は運がないらしい。後ろからぞろぞろとアイツらがやってきてしまった。これで人数が揃ったのは嬉しいことだが同じような説明を再び聞かなければいけないと思うと少し辟易とする。これなら最初から集まって行動した方が良かった。まさか、こうなることも黒幕側はわかっていたのか……?

 全員にルールブックが渡り、彼の二度目の説明を聞き流し終えると目の前のゲートがガチャンと音を立てて開いた。ゲートがさがっていた状態でも向こうの様子は見えていたのでわかってはいたがその先はただの一本道だった。とても狭い道だったので全員が一列に並んで進む。何か危険を察知したのか先ほど出会った彼らを含めた数名は頑なに先頭を進むことを嫌がっていたので仕方なく先頭を進む。

 『ルールブックの内容』

・この部屋は八人が集まらないと開始できません

・八人で部屋に入った後、中央にある絵本『しょうじょのせかい』を読んでください

・読み終わったらその絵本のおかしい点や納得できない点をお互い話し合いましょう(一人一個出せれば最善ですが出せなくても問題ありません)

・話し合いが進めば自然と脱出口は現れるでしょう

・『しょうじょ』と『しょうじょのせかい』と『世界』のどれを優先するのか、それによってしょうじょの未来が決まることを忘れないでください

 ちょっと進んで右へ曲がるとすぐ目的の部屋に辿り着いた。恐怖心はあるものの空元気で中に入る。至って普通の部屋だ。中央の丸テーブルの上に八冊の絵本が重ねられている。おそらくあれが『しょうじょのせかい』なのだろう。部屋の右側には立派な暖炉があった。火はどこか弱々しく見える。この部屋の空気の影響なのだろうか。

中央奥には珍しいことだが脱出口が見えていた。ゴールがどこにあるのかわかる安心感はあるものの、悲しいことに左、中央、右と脱出口が三つあるためむやみに飛び込むことができない。さらによく見るとゴールすべてにガラスのようなものがはめ込まれていて今の状態では割ることができそうにない。大人しく絵本を読むしかなさそうだ。少年が無邪気に座って絵本を読み始めたのを合図に各々が絵本を手に取り読み始めた。これまでとは異なる形式で理解ができていない部分もあるが何とかしなければ。

 『しょうじょのせかい』

 わたしは王さま。なんでもできる王さま。たのしいときはクマの人形さんとあそぶ。メリーちゃんはわたしがよびかけるとなんでもこたえてくれるしわたしの言うこともぜんぶきいてくれる。

 「ねえメリー、あなたはクマなんだからはちみつがすきでしょ?だからはちみつをたくさんあげるわ」

 メリーちゃんをはちみつボトルの中につめこんだ。ぎゅうぎゅう、ボトルからははちみつがあふれ出してもうはちみつボトルなのかメリーちゃんボトルなのかわからない。メリーちゃんはとてもよろこんでいた。でもこれだけじゃまだしあわせが足りないとおもってべとべとになったメリーちゃんをだんろになげ入れた。てらてらてら、ぼぉぼぉぼぉ。甘いにおいとこげたにおい。メリーちゃんのよろこびがはなからつたわってきた。おめでとう、メリーちゃん。

 たいせつなメリーちゃんがいなくなってしまいました。もう話をきいてくれるともだちはいない。それがなんだかとってもかなしくって、つらくって。きれいにおよいでる金ぎょやあたらしいカメラもだんろでもやした。なにもかわらなかった。でもこれでパパやママもわたしと同じ気もちになれるからしあわせ。

 パパとママにおこられた。パパとママはともだちをなくす気もちがわからないからおこるんだ。このかなしみをつたえるためにわたしはふたりのけいたいでんわをだんろに入れた。だんろがかわいそうだったのでいもうとがたいせつにしていたおえかきえほんもいっしょに入れた。これでわたしもパパもママもいもうともだんろも、みんないっしょでみんなしあわせ。

 パパがおかしくなっちゃった。パパはだんろの火をけしちゃった。だんろの中にはもえのこったゴミたちだけがさわいでいる。だんろはもちろんないていた。パパはやっちゃいけないことをやってしまった。ばつを与えなきゃ。パパお気に入りのこおりをくだく太いはり、これでぱぱの足をさしてみた。パパはないている。パパの足も同じぐらいないていた。こえをきいたママがあわててどこかにでんわをかけていた。ほんとうはママにもじっくりなみだを見てもらいたいけどしょうがない。でもパパにはだんろの気もちがつたわったようなのでうれしい。やっぱりみんないっしょ、みんな同じ気もちでいるのが一ばんだ。

 つぎの日からパパとママがわたしをさけるようになった。いもうとのせわばかり。わたしはとてもかなしいしさみしい。いもうとのクレヨンをだんろに入れたぐらいじゃわかってもらえそうにもない。とてもつらいかなしい。みんな同じ気もちにならなきゃよくないよね。パパとママのためにわたしはだんろに火をつけた。ぼぅ、もえる火がわたしたちのしあわせをいのってる。ありがとうだんろさん、ありがとうメリーちゃん。

」への83件のフィードバック

  1. 仕方ねえべ、絵本なんだから、ただ子供向けにしちゃ気持ち悪いべけど

  2. 暖炉でいろんなもの燃やしてわーいしてる女の子自体違和感ありありやけど
    まあ強いて言えば燃やすのを愛を燃やすんとかけてるのかとは思ったな。

  3. 少し失礼かもしれませんが、少し喋りに訛りの強い方。
    先ほどの方とお見受けえして間違いないでしょうか?

  4. はちみつ………なんかホルマリンの感じがします。標本を作る時に使う液体、生体組織の腐敗を防ぐものです。

  5. 先ほどはありがとうございました。
    自己紹介は不要かと思いますが、僕は十文字聖邪。聖教会の司祭です。
    そちらのメガネの方も、よろしくお願いします。

  6. 「たいせつなメリーちゃんがいなくなってしまいました。もう話をきいてくれるともだちはいない。それがなんだかとってもかなしくって、つらくって。」ってここなんだか、おかしくねえべか?メリーは少女が燃やしたのに

  7. いいなぁ、この子のお母さん。うちの親ずっとひっついてくるからうざいんよねぇ。

  8. あと、「しょうじょ」「しょうじょのせかい」「世界」どれを優先するかって、ここが理解に苦しむ

  9. 正しいのはしょうじょか世界か、或いはしょうじょが信じている世界かってことなんちゃう?
    どれ選ぶかで俺らの明暗も割れそうやんね

  10. 一見すると、少女が狂っているように見えるが、実は世界の方が狂っている可能性もあるべか?

  11. そもそもこれ聞かれてるんは「優先する」んはどれって事やからな
    善悪も正誤もこの際関係ないんちゃう?どれを選んであげるのが良いかってことやろ

  12. 確かにそうなると少女は誰かの幸せの為に動いているように見えるべ、自己中心的だが善行を積もうとしているべか……

  13. それに、この少女は暖炉に入れてあげることが幸せにつながると思っている節がありましたね。

  14. 他人の物を燃やすことは人を傷つけると分かっているのに、自分の友達をしあわせにするためにも火に入れる……

  15. 暖炉に入ることが救済??
    ってことは出口は暖炉の奥にあったりとかするのか…?

  16. 「やっぱりみんないっしょ、みんな同じ気もちでいるのが一ばんだ。」……少女的に考えるとここにいる全員が同じ気持ちになる必要があるんだべか?

  17. 「話し合いが進めば自然と脱出口は現れるでしょう」ってあるから、変に行動するよりもどの世界を優先したいか話し合えばいいんじゃないかな

  18. ……記憶が定かじゃないが、この部屋に連れて来られる前、管理者が「彼らの可能性を私が残した」って言ってなかったか……?自己中心的にこの場所へ連れて来たくせに、俺たちのためだ、って。この空間を支配してるやつが、ここの王様。つまり「少女」は、ここの管理者のことだったりして……。

  19. うーん。悩んでもらちが明かないので、とにかくさっきの絵本の気に入らないところを一人一個述べてみません?

  20. 優先するならしょうじょの世界ちゃう?
    普通の世界で生きていけるかも分からんなら幸せな世界で生きててもろた方がしょうじょにも世界の人にもええやろ

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