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 ピピピッピピピピピピピピピピーーーー

 一時間ほど経過したころだろうか、突如部屋中にタイマーが鳴り響いた。集中して解決の糸口を考えていたメンバーの緊張の糸が一瞬切れたが、警戒心によってまた体が硬くなったように見える。声を出すどころか体をピクリとも動かせないほど張りつめた空気が立ち込める。

『あ、あー。聞こえますか?聞こえますか?聞こえているなら右手を挙げてください』

 漂う空気に押しつぶされて誰かがよろけたのとほぼ同時のタイミングでどこからか人の声が聞こえた。すっと動きだした聖職者が暖炉の上部を強く叩くとぽろっと何かが落ちて来た。それをためらいもなくつかむ。

『あ、あー。聞こえてないかな?あー。あー』

 聖職者が握っている四角い小さな箱のようなものから声が聞こえてくる。真っ黒なただの箱のようにも見えるがおそらくスピーカーなのだろう。聖職者から奪い取り、皆が経っている場所の中央にそっと置いた。その動きの流れのまま右手を挙げると呼応するように今いる全員の右手が挙がった。

『確認しました。どうやらちゃんと聞こえているようで安心したよ。だいぶ緊張しているようだけどもっとリラックスしていいのに。色々言いたいことはあるけどそれは後にしよう。今ここでこうして声を出しているのは私の存在を知ってもらうため。ちょっと時間が経った後にまたこの声を聴くことになると思うけど警戒しないでほしかったから。ネタバレをすると次が最後の部屋なんだ。最も大事な問題を解いてもらうつもりさ。それなのに俺への警戒ばっかりで話をよく聞けなかったら最悪だろう?それを避けるためにわざわざこうして事前に登場したってわけ。では自己紹介はほどほどに最後の部屋でまた会おう、まあ声だけなんだけどね。最後に一つ、僕は君たちを助けはしないけど敵じゃない。それでは』

 スピーカーの音質のせいかあまりいい声とは思えない謎の人物からのメッセージが途絶えると再び部屋は静寂に包まれた。

 プシュー。ドアが開いた音のような音が聞こえた。だが周囲を見回しても部屋に目立った変化はなかった。手分けして部屋の壁や暖炉などを確認するが何も変化はない。

 突如少年がむせて床に倒れた。駆け寄ると彼のいたところの真上から何か煙のようなものが噴出していた。慌てて確認するとこれと同じように薄い煙が噴出している箇所が何ヵ所かあった。ばたん、ばたん。確認しなくてもわかった。誰かが倒れた音だ。朦朧とする意識の中自分だけは何とか耐えようと試みるが数秒も耐えられずにふっと体が傾いた。

 「あ、あー。ショートさん聞こえます?聞こえてるかなぁ……まあ聞こえてるでしょう。体は動かないでしょうがお気になさらず。今は次の部屋に移動している最中です。意識だけ少し覚醒させたので私の声は聞こえているけど体は動かないっていうもどかしい状態だと思います。んで、覚醒させたのは単純明快、次の部屋で取り組む問題の情報を与えようかと。情報と言っても何をやるかは教えないですよ。ただ、あなたがその場で何をするべきかを伝えるだけです。あなたは次の部屋でリーダーとなるでしょう。みんなの意見を促し、聞いて。それをもとに自分の答えを出す。今までと似ているかもしれないですが今までよりはちょっと難しいかもしれないですね。自分が求めるゴールへたどり着けるよう応援してますよ。あっ、目が覚めた時にこの記憶は残るでしょうからこれを信じて言うとおりにしてもいいし信じずに自分のしたいように振舞ってもいいです。最終的にはあなた自身で意思を決定してください。では再び寝ていてください……」

 『みんな起きてくださーい。朝ですよー。あ、二人ほど起きましたね、おはようございます』

 つい先ほどまで聞いていた声が前回とは比べ物にならないほどはっきりと聞こえた。無機質で少し不気味な感じはするが寝起きにはこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。目を開けると先ほどまでいた部屋ではなく新たな部屋だ。部屋の両サイドには音楽室にあるような大きさのスピーカーがシンメトリーに置かれている。スピーカーの音質が良くなったことによって明瞭に聞こえたのだろうと推測できた。

『あ、どうやら全員目覚めたっぽいですね。おはようございます。僕の声、覚えてますか?』

 何人かがその質問に対して素直にうなずいていた。

『ではちゃちゃっと説明しちゃいますね。今あなたたちがいる部屋は最終ゲーム【投票】の部屋です。ゲーム名のとおり投票をしてもらいます。投票先は【はい】か【いいえ】の二つだけで、それ以外の意思を示す投票はできないのでよろしくお願いします。残り時間十分と残り時間五分になった時にはこちらからそれを伝えますので聞き逃さないようにしてください。残り時間がゼロになった時に投票を宣言していない場合は【はい】に投票をしたと認識されます。投票を宣言する場合は「投票します。はいに一票」のようにわかりやすく伝えてください。受理しましたなどの通知はしないので不安にならずそのまま会話に参加してください。以上が説明となります。理解できなかった部分、説明が不足していると感じた部分は会話を進めていけば自然とわかっていくでしょう。それではみなさん準備ができたら中央にある円卓にお座りください。一応ですが椅子の背の裏にそれぞれの名前が書かれたプレートを貼っておいたので自分の名前が書かれた席に座ることをお勧めしますよ』

 妙に自信のある人、不安そうにぽつぽつと歩く人。それぞれで全く異なる様子だったが自分の目に映る七人全員が自らの足で椅子に座った。その様子を見た後に慌てて自分も最後の椅子に座る。

『おっ、準備はできたようですね。では開始を宣言する前にちょっとだけ雑談を。あなたたちがこの前にプレイした少女の部屋。あそこで得た力や情報もここで利用できるかもしれないですね。もしあれが自分たちへのメッセージだとしたら?自分の好きにできる自分のための世界、それが通じない一般的な社会。あなたがたが戻りたい世界はどっちなんでしょうねぇ……っと無駄話はここまでにして、皆さん準備はいいですか?』

 円卓を囲む彼らの表情を見る。先ほどまでとは打って変わり皆同じように何か決意を宿したような表情となっていた。それを見てしまった今自分だけが不安そうにしているのもなんだかおかしいように思える。この最後の部屋を抜けてみんなで脱出。それだけ忘れないようにしていればいい。それに気づいた途端なんだか頭が軽くなったような気がした。いける。心の中にいるであろうもう一人の自分がそう呟く。

『それでは最終ゲーム【投票】スタートです』

 始まりを告げる笛の音がスピーカーを通じて耳に届いた。

」への149件のフィードバック

  1. あーこれで終わるんか?
    まあそう言っとんならそうやろうけど。にしても選択肢のないYES/NOとか意味わからんな

  2. 前の部屋の選択肢は三択やったけどな。敢えて二択にするなら……さっき言っとった「自分のための世界」か「不自由な元の世界」っちゅうことか?知らんけど

  3. ちょっと冷静になってもう一度考えるのが良いと思う。前の物語の結末、みんなが火に焼かれて死んだことだよね……もしここで「はい」を選ぶと同じ運命になるかもしれない。

  4. いろんな可能性がありすぎて、想像しても無駄な気がするわ。
    潔く自分の好きな方でいいんじゃないかしら

  5. 自分の好きな方ならみんなどっちなんだ?
    簡単に言えば、自分の好きな自由な世界、それともそれが通じない不自由な世界

  6. それに、ここから出ると外が一体どうなったのかもわからないだろう。もしここは避難所みたいなところで、外の世界はもう終わったらどうする?

  7. 俺はもう意見を変えるつもりないから言っとくけど「いいえ」やで。まだ投票はせんけどな。やから仮に世界に当てはめるなら不自由な方や

  8. 仮にこの質問が「この場所に留まりたいですか、それとも戻りたいですか?」やとしたらはい選んだら出れんくなるで

  9. そもそも自由な世界ってのがこの先の部屋のことなのか何なのかさっぱり分からないんだけどな…

  10. ぼくには難しいからわからんもんね〜。
    なんか、誰かに言われた気がしたんやけどな〜

  11. いいえ、ただ何も知らないままに選択とかしたくないだ………もしこの時なんか情報みたいなものがあれば……

  12. 私は、ポジティブにいきたいわ。
    「いいえ」って言って死んじゃったらそれこそ悲しいじゃない

  13. そもこれ質問の段階からおかしい思わへん?だって声を上げへんかったら「はい」になるって普通逆とちゃう?いいえに人多くしたいって罠だったらしたいと思うねんな
    何もしなかったら賛成になりますよ言うとるように聞こえる、っちゅうことは裏を返せば「意志を持っていいえと、反対と答えろ」ってことにならへん?
    俺らに試されてるのはそうやって一歩踏み出すことやと思うねんけど

  14. 僕は反対です。
    ……というか早計だと思います。
    このゲームのテーマは話し合い。いつでもそうでした。もう少し話すべきです。

  15. そりゃそやろ。やから俺は俺の意見言っただけやん
    聖職者はんも疑うばっかやのうて自分の意見出せばええやん

  16. それは分かったけどなら強いて言えばどっちに入れたいとかないん?今一番皆聞きたいんはそこやと思うねんけど

  17. 俺は「いいえ」。時渡が言ったみたいに、「意志を持って、いいえ」と答える必要があるんだとしたら、管理者の質問は「ここで死にたいか?」ってことかもしれない。それなら俺は、意志を持って「いいえ」と答える。

  18. 僕は、まず話し合いを進めるべきだと思います。
    このままだと「いいえ」に誘導されてるように思えなくもないし。主催者は敵じゃありませんから。

  19. 自分の意見言うただけで誘導されてる思われる方がよっぽど「誰かをスケープゴートにしてはいに誘導してる」って思うけどな

  20. とにかくそう邪険にせず、まずは前の部屋の情報も加味して、新たに得た情報等はないですか。話し合いましょう。そう結論を急がず

  21. もし本当に主催者がなんとか目的がないなら、なぜ私たちをここに集まったのも謎になる……

  22. 理想的な世界と、住み心地良い世界と、生きやすい世界と、生きたい世界。全部違うけどな

  23. かえでちゃんも!?
    実はあたしも、起きる前に主催者って名乗る奴の声を聞いたの……心のなかに生への不安を宿しているやつを集めたって。ゲームを通じて生きることへの意欲を高めてもらいたくて、生きることの重要性を知った上で君たちには元の世界へ戻ってもらいたい、みないなことを言っていた気がするわ……

  24. 俺は、「なぜこの空間にいれられたのか、答えを導き出せ」って。

  25. 仮に聖職者はんが正しいとしてわざわざここに閉じ込めといて黙って見てれば生かしてあげるで~……って、普通に腑に落ちんけどな

  26. 皆さんの意見もお聞かせください。
    できれば生に対する価値観とか、ここにいる理由ー思い当たるものとかも。あれば

  27. 俺は話しとるやろ。俺はおかしい思ったからおかしい言っただけや
    貶めたいんからしらんけどヘイト集めんのもええ加減にせえよ

  28. 言われてたら楽しそうやったんだけどなぁ。生憎俺は天の声さんに好かれなかったみたいや、なんも分からんままよ

  29. あたし、最近少し生きるのが面倒になってたの。ほら、こんな図体で少しだけフェミニンじゃない?
    フェミニンな男はゲイからもモテないしノンケからは揶揄われるし……
    めんどくさくなってたのよね、来世は苔になりたいなって思って生きてたら、気づいたらここにいたわ

  30. ……俺は、同期が上司のいじめで死んで、それからここよりずっと狭い空間に引きこもって、もうどうでもよくなって、……生きてるのかも分からなくなってた。

  31. 俺は別に毎日ぼーっと生きとっただけやで。いつ死んでもええけどまだ早いなあ思ってたらここにおったわ

  32. プールめっちゃ高いところから飛び込んで、怒られてかなしい……とか。
    アリさんと遊んでたら、怒られて、めちゃかなしい……とかぐらい?

  33. 支えになるかはわかりませんが、僕は司祭です。神の代弁者としての僕に、ここに罪や悩みを告白してみませんか?
    生のとらえ方が鍵になるなら、何かがわかるかも。

  34. え、僕ですか?
    月並みですよ。
    僕の祈りだけでは、隣人たちは救われないんです。ならイイスス・ハリストスに従うべきでしょう?無欲を心得るのです。生きたいと思うのは、神の教えに反します。

  35. 生きたい思うんは生物に許された正当な欲望ちゃうん?
    それをあかんとあんた自身も思っとるんか?

  36. 僕は常から思っていますよ。欲にまみれた生にしがみつくのをやめたとき、父が最終たる救いをもたらしてくれる。それが死だと

  37. ……僕らは「しょうじょのせかい」の少女
    社会は親達
    そんな感じがするべなあ

  38. 死にたいも欲望、それも間違いやとは思っとたんで
    ほな聖職者はんはあれか。死ぬために「はい」選ぼうとしたってことか?

  39. 僕は赦されて死にたいんです。死ぬしかないときに死にたい。今はまだその時ではないんです

  40. どっちを選んでも生きるかも死ぬかもしれんなら、俺は明確に俺の意志をつきつけてやる。それが生きた証になると信じてやってな

  41. 僕は人生の最後どうしようもない瞬間に死ぬこと。これは……目標というより、定めですかね……

  42. この先、誰かが消えるのをもう黙って見ているのは耐えられない。俺は、元の世界に戻って生きたい。

  43. もうそろそろ時間やな。俺は皆と生きた証としても意志を残すで

    時渡烏は「いいえ」に投票や

    間違えんといてな管理人さん

  44. 残り時間五分になったことをお伝えします。ゼロになったときに投票を宣言していない方は【はい】を宣言したこととみなします。

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