描写

お題『青春』

新井

擦れたインクの匂いに不思議と懐かしい気持ちにさせられた。

薄くすすけた頁を摘まむと、指越しに質量が訴えかけられる。日焼けした黄色く黒い肌は、前の持ち主に愛されていた証拠だろうか。知らない世界を抱えたグリモワールは、誰かとの想い出を紡いだ過去に思いを馳せているような、そんな温度がした。

端は白く擦り切れ、背表紙は元の色を失っている。何度も読まれたのだろうか、ページの真ん中あたりが黄色くなっている。本をめくっていると、中に小さい紙が挟んであった。その紙からはほのかにラベンダーの香りがした。

ティモシー

キンドルの世界で、古本はなんだ?棚に置いていいのはわずかな10冊。ここにある古本はただ、再度のダウンロードを待ち続けて、新しい出会いは存在しない。

柴野

私が、この古本屋の本として置かれたのは、この店が開店した当初だったからもう三十年以上の時がたつ。三十年も行先はなく、周りの本たちは次々と旅立っていったが、寂しいと感じたことはなかった。様々な人と本の出会いを棚から観察するのも中々、楽しい。ほら、また店のドアが開いて、新しい客が来た。どうやら本を売りに来たようだ。きっと、新入りだ。新しい楽しみが増えそうだ


お題『青春』

中山

「答案」

日に日に移りゆく空の青さのように、自分を保つことさえままならない。そんな時代に生きる私は、人生という白紙の答案を埋められないでいる。