会議にて(あれ、ピーちゃんは①)

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会議にて

「皆さん、お集りいただきありがとうございます。ではこれより、『ごんざえもんパーク五十周年記念』経営戦略会議を始めたいと思います。」

今回のプロジェクトの企画者である中村がそう言った。中村は会議の資料を会議室にいる全員に配っていく。その手は少し震えていたが、よほど練習したのだろう。プレゼンは完璧なものだった。 

一通りプレゼンが終わると、突然社長が口を開いた。

「このマスコットのキャラクターの名前……、『ピーちゃん』にしようと思うんだ」

 会議室に突如として衝撃が走った。皆が口々に「ピーちゃん?」と呟く。権田だけが甘い声で社長に賛同した。二人がいいですね、いいよねと応酬をしていると中村が恐る恐る声を上げた。

「……しかし、『ピーちゃん』というのはあまりにも安直すぎるのではないでしょうか」

 そんなことはないと否定する社長を宥めるようにベテランの骨川がこう言った。

「社長ぉ……。若いパワーがこう言っているんだから、少し……な?」

そして社長は代案を出すように会議の参加者に言ったが、皆は代案が浮かんでいるわけでもないため、黙り込んでしまった。皆を見回して社長がじゃあピーちゃんにするかと言うと、中村が初代マスコットキャラクターの『鈴木権左衛門』と『ピーちゃん』ではギャップがありすぎると皆が思っていながらも言い出せなかったことを口に出した。決まりそうもない話し合いに終止符を打つかのように、ごんざえもんパークの五十周年記念企画として新キャラクターの名前は来園者に投票で決めてもらうことになった。骨川はこれに賛同したが、権田はピーちゃんがいいとごね続けた。社長が権田に共感の相槌を打っているのを遮るように鈴木の鈴木ひよりが会議室に入ってきた。がちゃりと音をたてながら扉を開くと、乱雑に社長と権田の前にお茶を置く。鈴木社長が茶器に触れて熱がるのを見たあと、

「あ、お茶です」とそっけなく言った。他の社員には普通の態度でお茶を置いていたが、NAOに対しては特別な感情があるのか、「いい茶葉、使ってるんですよ」とこっそりと伝えていた。鈴木は全員に配り終えたのち権田の隣にある自身の席に座った。

 後から合流してきた鈴木に対し骨川が新キャラクターについてどう思うか尋ねた。

「そうですね……。あんまり強くは言えないんですけど……。まぁ、最悪のセンスだと思っています」

 発言にどよめく周囲に反し、骨川は手を叩きながら笑った。そしてNAOにも同じ質問をした。デザイナーのNAOは、自分はただ、デザイナーとしての仕事をしただけで、中村に任せたと言った。デモ段階での候補の名前がなかったのかいう声が聞こえたが、それには、以前からいるキャラクターが『鈴木権左衛門』だったためそこを意識してデザインしたのだという。確かにデザインは既存のキャラクターに寄せてデザインさせている。そして、急に『ピーちゃん』になってしまうと、ファンシーな雰囲気になってしまうと困惑を浮かべながら伝えた。

「……そうですよね。せっかく新進気鋭のデザイナー・ナオに来てもらったんですから。流石に、あまりにもイメージが違いすぎるのも、お客さんの混乱を招いてしまうのではないでしょうか。やはり、ここは――」

 中村がNAOに賛成を示すと同時に、中村の同僚である神宮寺がおずおずと口を開いた。

「あ、と、僕も同じような意見で……。やっぱり、以前の『鈴木権左衛門』の面影が残っていた方が皆様に好きになっていただけるんじゃないかな、と思うんですけど」

 これに対し社長は軽く頷いた。そして先代から引き継いでようやく五十周年記念をめでたく迎えられたこと、そして自分がこの遊園地を引き継いだ時点で新しいことをしていこうと決めていたと語り始めた。そしてそれを応援してくれるのが秘書である瑠奈ちゃんだとかなり興奮気味に言った。

「その、仰ることはわかります。しかし、『権左衛門』から『ピーちゃん』は……。せめて、『権三郎』とか……ネーミングを寄せていくべきではないかと、僕は思います」と中村が言う。鈴木もこれに同調し、辛辣な言葉でピーちゃんという名称を非難した。

「でもぉ、ルナ思うんですけどぉ、最近の遊園地ってやっぱり、可愛いものの方が良いですよね、社長」

 社長はによによと口元を緩ませながら、権田の言葉に頷いた。そして社長はこう言った。

「父は頭が固く、伝統を守ろうという姿勢が強かった。それは一つの魅力ではあるけれど、同じことをしても味気ないと思う。だからこそ可愛いものを増やしたい。そう考えた時に『権三郎』では少し堅すぎるし父と変わらないんじゃないだろうか。」

 社長の話を聞いて、骨川はもう少し段階的にやっていった方がいいんじゃないかと言い、飯田にも意見を求めた。

「そうですね。ここまで話を聞いてきましたが、権左衛門も非常に味のある名前として、皆さんからは非常に好評でした。一方で、ピーちゃんという名前も非常に愛くるしい。私としては、どちらの意見にも、まあ中立という立場で臨ませていただきたいなとおもいますね」

 飯田は中立の立場のようだったが、神宮寺はピーちゃんより鈴木権左衛門に近い名前の方が良いと思っていたと言った。骨川は踏襲した方が安全ではあると意見を伝える。中村が来園者に決めてもらえばイベントとして盛り上がるのではないかと再び提案した。社長は選挙の下準備として、会議にいる人たちから案を募った。権田がホワイトボードに今までに出た案を書いていった。

「逞しい名前が良いと思うんだ。やはり、初代の権左衛門がサムライを意識した、ちょんまげを結った外見が印象的だからなあ」

「骨川派とか、良いんじゃないですかぁ?」

権田が骨川を見ながらそう呟いた。骨川はひどく狼狽えた様子で落ち着きがない。社長に骨川派について問われると、何のことだと誤魔化した。神宮寺は『鈴木権蔵』を挙げ、骨川と中村が同調した。中村は『鈴木まささぶろう』を挙げ、発言を促されたNAOがこう言った。

「そうですね、やはり、前のキャラクターの雰囲気を踏襲しつつ、新しい風も少し取り入れたいということなので、これまでの権三郎とか、まささぶろうとか、それこそ漢字でなくて平仮名で書くとか、キャラクターとしてかわいらしさが生まれてきて、愛称が着けやすいんじゃないかと思います」

皆が口々に褒めた。飯田の飯田は『ぴーざぶろう』を挙げた。

「じゃあ最後にひより。」

 社長にそう呼ばれた鈴木はひらがなで『ごんざえもん』が良いのではないかと言った。

 ホワイトボードには『ピーちゃん』『権三郎』『骨川派』『鈴木権蔵』『鈴木まささぶろう』『ぴーざぶろう』と書かれている。そして最後に意見を求められた権田はピーちゃんが一番可愛いと言った。しかし骨川が権田自身の案も欲しいと言うと、彼女はこう言った。

「でも元はピーちゃんルナの案なんですけど…」

 会議室にいた全員の頭上に疑問符が浮かんだ。社長が軽く咳払いをして進行を再開したが疑問は消えない。似た案が多いため、三つに絞ると社長が言ったが、そのうちの一つはピーちゃんで決まりだと言うと、皆が不満そうな声を出した。骨川、中村が『権三郎』。NAO、鈴木が『正三郎』。飯田は、『権三郎』と『正三郎』が二対二であることを確認し、『鈴木ぴーざぶろう』を選んだ。神宮寺は最後に『鈴木ぴーざぶろう』を選んだ。シードの『ピーちゃん』と『鈴木権三郎』『鈴木正三郎』『鈴木ぴーざぶろう』の二対二対二の膠着状態になった。

 ふと権田が思い出したかのように「あっ」と声を出し、言葉を続けた。

「でも~今回のマスコットキャラクターに「まげ」ついてなくないですか~?」

「…文明開化をイメージしたんだったかな!ちょんまげをやめ髪は整えて、なぁ!」

 骨川の発言に、自分に話題が振られていることに気づいたNAOが、まげはないが帯刀をしていると言った。新時代を担うキャラクターとして素晴らしい、五十周年にぴったりだと骨川と社長が言った。

「じゃあ、鈴木ぴーざぶろうでいいんじゃないですか?鈴木権三郎がいい人、正三郎がいいっていう人の意見も入るし、まあねえピーちゃん…の意見を入れるのは癪ですけど、まあ折衷案というか…なおさんも先ほどこのようなこと言われてましたよね?」と鈴木が言った。社長のことを睨み続ける鈴木を不思議に思ったのか、骨川がそのことを指摘した。すると社長は弱々しく「色々あってな」と言った。骨川が彼女は鈴木だろとツッコむも社長は遮り、話題は選挙方法へと移って行ったが、決定はせず、後日決めることになった。社長が何か言いたいことがあるか人がいるかと問うと、鈴木がおもむろに口を開いた。

「社長の態度が良くない」

 新入社員であるにも関わらず、物怖じしない鈴木の姿に、社員たちは驚いていたが、社長は態度?と困惑しているようだった。骨川の随分親密じゃないかという言葉に、社員たちも口々に社長を鈴木のおかしなところを指摘し始めた。「ひより」と呼ぶのはおかしいという声に、社長は苗字が同じだからとごまかすように言い、鈴木はかばうように、私も鈴木なのでと言った。骨川は鈴木、鈴木かぁ、と呟き、なにか閃いたのか、まさかと言って口をつぐんだ。

「瑠奈ちゃんは何か話したいことある?」

 社長が鈴木に対しての話題から逸らすように権田に話を振った。

「予算って大丈夫なんですか?」

「正直に申し上げますと、非常に苦しい。こちらの資料を見ていただければ分かるとおり真っ赤っかなんです。」

 飯田が深刻そうな顔で言った。鈴木がNAOへの支払いが大丈夫かと尋ねると、飯田はそれもどうなるか分からないと言った。鈴木が真剣にNAOへの報酬を心配おしているところから、骨川がそんなにすごい人なのかと尋ねると中村がこう言った。

「ええ、僕の高校時代の同級生ということもあるんですが、有名企業からのバックアップを多数受け、数々の作品を手掛けている有名な新進気鋭のデザイナーです」

 会議室が驚きで満ちた。NAOへ移動していた興味を予算に戻すように、権田は去年の話を始めた。目敏い中村は資料のおかしな部分を見つけ、飯田を指摘した。

「支出が多すぎませんか!」

 経理の飯田は、経理になったのは今年からで、昨年の情報についてより詳しいのは社長だと言った。方々から「社長!」とヤジが飛ぶ。中村は配布資料を指さして、経費の支出が一億二千万なんておかしいですよ!と興奮気味に言った。鈴木が何に使ったのか尋ねると、飯田がイルミネーションを行ったと言った。

「あれ一億もしてたんですか!だったらもっと広報も頑張ってましたよ!『一億のイルミネーション』って広告打ってますから」

 中村がそう言った。飯田がそれだけではないといったが、その他で思い出せるようなイベントは、どうでもいい芸人のイベントショー程度だった。昨年のイベントを企画した神宮寺は何か知らないかと権田が神宮寺に尋ねると、なにか覚悟を決めた様子で神宮寺が口を開いた。

「あの、すごく言いにくいんですが、実は先日飯田さんが夜、パソコンの前で書類を書き換えるところを見てしまいました」と言った。すぐに会議室いる全員が飯田のことを見つめる。そしてすぐに皆が飯田にどういうことだと問い詰めだした。

「何を言っているのか。書類を書き換えるところを見たとおっしゃいましたが、具体的に私が一体何を書き換えてどのようにしたのかをお聞かせ願えますか?」

「パソコンの前で支出の欄の数値を変えているところを見ました」

 神宮寺の発言に横領じゃないかとヤジが飛ぶ。

「そんな近くで見ているのになんで君は止めなかったんだ」

「骨川さんの言う通りです。私がそのようなことをしていたなら、神宮寺さんは当然止めに入るはずだ。だってあなたは正義感が強い優秀な社員じゃないですか。止めないなんてあり得ない」

 それに対し中村が横暴だと非難した。鈴木が社長にどう対処するのか意見を求めた。

 社長はそれを過去の話だと割り切り、今から盛り返せばいいと言った。その発言には誰も賛同せず、皆口々に処分を求める。鈴木も荒々しく、飯田を問い詰め、また飯田を処分しようとしない社長を問い詰める、

「まあひより、落ち着いて……」 

「仕事だからおかしいって言ってんでしょ!馬鹿!」

 唐突に社長に向かって声を荒げた鈴木を骨川が宥める。社長は全く聞こえていなかったかのように進行を再開した。この新キャラクター企画が成功すれば一億二千万の赤字だけで済むと言った。それに対して責任感はないのかなどと口々に社長と飯田を非難した。社長は飯田の横領を黙認すると言った。この発言に対しても非難が湧き起こった。社長の信用が下がるところを見計らっていたかのように、骨川が社長と権田の親密さ、権田を瑠奈ちゃんと呼んでいることを指摘した。

「気持ち悪いんですよアンタ、全部。頭の先からつま先まで」

「そんなことを、言うのか、お前は! 実の親に対して!」

社員の驚いた声が会議室に響く。中でも一番驚いていたのは権田だったようで、

「子供いるなんて言ってなかったじゃないですか!」

と取り乱した様子で社長を問い詰めた。

「子供はいる」

「はああ?」

 骨川は説明を求めると。鈴木は渋々といった様子で、自分と社長の関係を話し始めた。鈴木ひよりは、社長である鈴木まさるの実の娘であり、祖父が社長をしていた頃の遊園地の活気を絶対に取り戻すという強い意志を持って入社したということ、本当はおとなしくしておくつもりだったのに、父親が許せなかったと明かした。

「母も言ってますよ!」

「なんて言ってる!」

「気持ちが悪いって」

「そ、そんなふうに?」

「洗い物しながら、家に帰ってくるな!って、ずっとキレてますよ」

「社長、奥さんと仲悪いって言ってましたよね?」

権田の言葉に社長は一瞬息を詰まらせたが、諦めたように話だした。

「仲いいよ」

「離婚するって言ってましたよね!?」

「えっリコンスルッテイッテマシタヨネ?」

「社長」というざわめきが起こる。

 中村が焦ったような声で、権田と社長の話を遮る。

「えちょちょっと待ってくれ、確か、権田、さんは、ここでいうのはよくないかもしれないけど、神宮寺の、彼女なんじゃ…」

 中村の発言に会議室が静まり返った。

「そうだったのか?!そうだったのか瑠奈?!神宮寺と、付き合っていたのかおまえ…!」

「一体どういうことなんだ!俺の、俺の神宮寺を!たぶらかしやがって…」

骨川が中村を宥め、場を落ち着かせるために社長を連れて会議室を出た。他の会議参加者も信じられない、説明を!と権田に迫ったが、権田は知らないの一点張りだった。しばらくして骨川のみが会議室に戻ってきた。そして社長の座っていた席に座り、「この場は私が預かる」と言ってテーブルに足を乗せ、ふんぞり返って腕を組んだ。権田は立ち上がって骨川を指さしてこう言った。

「知ってるんですよ、この会社を乗っ取ろうとしてること!」

 権田は骨川が遊園地を乗っ取ろうとしているという計画を社長から聞いていたと言った。骨川はそれをやんわり否定しながら、そもそも社長ともあまりいい中ではなかったと言った。

 中村が、社長と権田との親密な会話について説明を求めるが権田は依然として、浮気なんてしていないと貫き通している。鈴木が場合によっては母に連絡しないといけないというと途端に権田は無実を主張しだした。それも神宮寺に信じてもらえないことを悟ると権田は社長に離婚の相談を受けていたと白状した。鈴木がそれを否定し、鈴木と権田の言い合いに骨川が一旦家族会議は終わらせようと言ったため、話題は骨川派へと移って行った。権田や中村が骨川派を問い詰めたが骨川はとぼけた。話題はまた変わり、今度はデザイナーの未払い問題についての話題に変わった。権田がなぜNAOを採用できたのかと聞いた。中村は飲み友だからと答えた。皆の訝しげな目線を感じた中村が、俺は何もやってないと無実を主張した。骨川が片付けやすい問題から片付けていこうというと、すかさず権田が骨川派について指摘した。すると骨川は権田のブーイングも聞かないふりをして、キャラクターの名前を決めてしまおうと言った。皆が社長の不在を指摘すると、骨川は会社総則の第一条の五にある「社長は続投できないような精神及び、身体的状況の場合、次点の社員にその席を一時的に譲る」を持ち出し、権力の正当性を主張した。新入社員がそれはそうだと言うと権田が何故そんなことまで知っているのかと問うた。

「好きで入ったからこの会社。めちゃくちゃ読んでますから。色狂いのあなたと違ってね。」

「色狂いってなんですか! ルナは亘君しか好きじゃないって!」

 権田の声が会議室に響き渡った。直後、咳払いをしながら社長が会議室に戻ってた。

 社長戻って来る。社長は落ち着いた様子でホワイトボードの前に立った。そして「馬鹿なように振舞え」と先代に言われたこと、父は独断専行で周りの意見を取り入れずに物事を進めてしまったことを後悔していたこと、だからみんなと手を取り合って運営していってほしいと言われたことを話し始めた。しかし社員は聞く耳を持たず、最初にピーちゃんにしようとしたのは社長だと中村が指摘した。社長は素直に謝罪し、団結を求めるが、すでに社員の感情は、ばらばらに散らばってしまっていたため、誰一人として社長の発言に賛同しない。依然として偉そうに話す社長に、鈴木を筆頭として皆口々に文句を言い始めた。

「ルナの給料どうなるんですか?」。

「それはどうでもいい。」

「どうでもよくないでしょ。わたるくんと結婚するための費用を集めてるの。」

「ふざけるな、浮気女。俺の神宮寺を渡せるか!」権田は勢いよく立ち上がって中村を指さした。

「お前のじゃねえし!」

「そんなことより、ナオさんの給料、デザイナー代からですよ。」

「あんた、ナオのこと好きすぎじゃない?」

「そりゃそうでしょ。ファンなんだから。あなたのことはどうでもいいんだから。」

 またしても権田と鈴木が口喧嘩を始める。それを宥めるように社長が話をまとめようとしたが、これにも方々から非難の声が上がった。

「いいかい。これ、今、ごんざえもんパークは五〇周年を迎えている。五〇周年。今まで繰り返してきた時間っていうのも、あともう一回繰り返すと一〇〇年。もう一回繰り返すと一五〇年。これからの将来、これから長く続く人生の中で、いろんな人を喜ばせていきたい。俺はそういう遊園地を作りたい。そして、そういう風に心の奥底から、この遊園地を盛り上げようと思っている人たちが、ここには集まっている」と皆に語りかけるも、権田が飯田はどうするのかという発言し、皆もそれに同調した。社長は飯田に本気で遊園地を立て直したいと思っているのか尋ねるが、飯田は社長を問いつめるかのように、質問を返した。

「お前は、本当に遊園地のことを考えているのか?」

飯田の発言に、社長は一瞬口を摘むんだが、何かを覚悟したように、静かに話し始めた。社長就任当時は適任者であった骨川に譲ってしまってもいいと考えていた。しかし父が自分を選んだのだから、世界一の遊園地にしたいという思いに賛同してくれる人と仕事がしたいと思ったらしい。

「遊園地を良くするためのメンバー集めたって言ったけどさ、これ見て、本当にそう思うか。こいつらさ、浮気だ、不倫だ。馬鹿馬鹿しい。さっきから色恋沙汰でバカみたいに騒ぎやがって。こんなメンツ集めちまった社長が無能なとこがすべてじゃねえか?」

「ここまで問題が膨れ上がるまで放置していた、この社長と、俺。真にこの席にふさわしいのはだーれだ。」

 骨川が自信ありげに社長の席をトントンと指でつつき、返答よりも先に、社長の席に座りなおした。それを見ていた社長は、あっさりと社長をお客様に決めてもらおう、と言った。その言葉に、社員たちは驚きの声を上げる。

「ああ、これを習ってやろうじゃないか遊園地経営で重要なのは、社員をどう扱えるか、どういうふうにシステムを組めるか、だ」

「ルナ達で決めていいものなんですか……?」

 権田は困惑しながら発言するが、そんなことよりもと中村が社長と権田の関係を問い詰めた。

「離婚するって言ってたじゃないですか!」

「ああ、ええ?言ってない。言ってない。」

権田は自分に向けられた追求をそらすかのように、今までに上がったおかしなところを乱雑に指摘していく。

「しかもなんでNAOなんですか?」

「いや、だから。高校時代の」

中村に視線が集まる。中村は突然「好きだったんだよ!俺はNAOのことが好きだったんだよ! まだ、好きなんだよ!」と叫んで泣き出した。大声で叫び、大粒の涙をこぼす中村に社員はみな戸惑いを隠せていない。社長もその一人だったが、中村を落ち着かせるために口を開いた。

「落着け。単刀直入に聞こうか?NAO君はどう思うんだ?」

「うるさいんだよ。こっちは給料が発生しないかもしれないんだよ。このよくわからないおっさんのせいで。」

 突然話を振られたNAOは困惑しながらも、それまで巻き込まれた内輪のいざこざだらけの会議のうっ憤を晴らすかのようにNAOは飯田を指さし、声を荒げた。

「てか、なんで横領なんてするんですか?」

「なんでお前は不倫なんかしているんだよ!」

 権田がテーブルを叩いて立った。

「してないって!」

「俺の神宮司をたぶらかしやがって。」

 周りがNAOと神宮寺どっちが好きなんだ口々に野次を飛ばす。その言葉を蹴散らすように中村は立ち上がって叫んだ。

「どっちも好きだ!うるせえ!なんか文句あるのか! お前も同じようなもんだろ!」

「ルナは亘君のことしか好きじゃないよ。」

「うるせえ!離婚離婚離婚ってよ。」

「だから、ルナは亘君のことが好きなの!」

「嘘つけ。神宮司、お前なんか言ってやれ!」

「とりあえず、後で事情話してもらっていい。」

 証拠があると言い出した骨川が社長と権田が仲睦まじそうに、社長室に入っていくところが監視カメラに映っていたといい始めたが、社長室にいるのは仕事だからと権田は言い返したが会議室は一気に不倫は確定の雰囲気になっていった。

「不倫していないって。ルナは亘君一筋だもん。ねえ、亘くん」

「もう、わかんない。」

 権田が中村にNAOのことが好きなんじゃないのかと聞くと、中村はキレながらどっちのことも好きだと叫ぶ。そしてその不満や怒りを押し付けるように社長につかみかかった。

 骨川が仲裁しようとするも、中村の力には勝てず、中村はこんな会社辞めてやると言って会議室を出ていった。骨川が社長に、優秀な社員を壊してしまった責任をどうとるのかと聞いたが、は知らないと答えた。

「あなたの不道徳な行動によって、こうなったんでしょ。」

 鈴木が社長をキッと睨みつけながら、そう言い放った。社長はそんなことはどうでもいいと言い、会議の終了を告げた。どうすればいいかわからず皆がその場に立ちすくんだまま動けなくなっている中で、「こんな、会議めっちゃくちゃだ。」

という神宮寺の声が会議室に響き渡った。


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