白い霧の奥に二筋の赤い光が灯台を映写している。二つの灯台。
ミニ観葉植物を窓辺に飾る。中川君もそうしているに違いない。ガラスの植木鉢を窓辺に置いて遠い目をする。中川君と目が合う。次の日曜も空いている。中川君と私は映画を観る。感想を言いながら、絶えず口元をほころばせながら、コンデンサーミルク味でミルクティー色で、柑橘の香りのするあれを飲む。お互いの口にグラスのストローをくわえさせながら、2ショットを撮る。付き合ってくださいとお願いするのは、あるいはされるのは、何回目のデートの時が適切なのだろう。母の目。三回目くらいだろうか。そう言っていた気がする。
ミニ観葉植物を引き抜いて窓から投げる。昼間遊んだ中川君の姿を思い浮かべようとしてくしゃみがでる。中川君のイメージがひらひらと宙に舞って窓から出ていった。ゲロの付いた服は洗濯せずにそのまま捨てればよかったかもしれない。あんな無地のTシャツを着て、アメリカ人を気取ったところでかっこいい人間になるはずがない。ガラスの植木鉢を割ろう。こんなものがおしゃれなはずがないんだ。割れたガラスから土があふれ出る。今日の一日をすべて、なかったことにできた。父と母の笑顔。胸が軽くなる。
船頭はさっきから櫂の動きを止めている。二つの灯台のどちらにも船は進まない。
布団が柔らかい。観葉植物をカバンから出し忘れた。飾るにしても、捨てるにしても、もう眠いから明日にしよう。
無邪気な声が霧中に響いている。それがどこから発されているのかわからない。海と空が渦を巻き始める。どくろが上下左右に揺れ動く、それに合わせて灯台も動く。どくろの目が点滅して、空や海に色んなものを映す。白い霧がそれをかき消し、また別の像とつないたりする。海の底に布団の上で目を閉じて寝ている私がちらっと見える。そこから私が泳いでくる。海から船に上がってくる。私と隣合わせで座り、渦を巻く天と海と、そこに映るものを眺める。
※この回の会話文はありません。これでライブ小説@うみみは終了です。